大規模修繕工事とは
大規模修繕工事は、建物周囲に足場を組んでおよそ12~15年周期で実施することが推奨される規模が大きい工事をいいます。建物の損傷や劣化箇所を補修し、機能を回復させることを目的にして行われる工事です。
高額な工事でありますが、不具合箇所等を都度、補修することに比べると、足場を組んで補修できる箇所をまとめて補修することで全体の経費が安価に収まるといった経済面での効果も期待されます。
建物である以上は、振動、地盤変動、外部環境、紫外線などの要因による経年劣化、そして地震などを要因とする災害劣化など避けては通れません。
そのため、定期的に手を入れることで、建築時の機能、性能に回復させ、建物を健全な状態に維持していくことを目的にしています。
また、建物の躯体を健全な状態を維持するのと、しないのでは、将来にわたり建物としての性能、機能、安全性、強度等に大きく差が出てきます。
1回目の大規模修繕工事での主な工事項目としては、外壁補修、シーリング補修、塗装補修、防水補修があげられます。さらに、時代の変化に追従させるための改修・改良工事(バリューアップ工事)も含め実施する場合もあります。
例として、防犯面におけるIOT技術を取り入れたカメラの設置による安全性の向上、高齢化社会におけるバリアフリー工事、手すり設置工事による高齢者への配慮、脱炭素社会の形成における省エネサッシ、蓄電池の導入による環境への配慮などが挙げられます
躯体の重要性とコンクリートの中性化による建物の強度低下
建物はコンクリートと鉄筋で構成する躯体が最重要視されます。コンクリートは圧縮力には強く、引っ張る力には弱いため、コンクリートの内部に鉄筋を配筋して引っ張る力を補填し全体の強度を保っています。
しかしながらコンクリートの中性化による弊害として、鉄筋コンクリートの本来果たすべき役割が失われ、建物の寿命の短命化、強度低下などを招きます。
コンクリート内部の鉄筋は、鉄であるがゆえに発生し得る“腐食”に対しては防止策を講じる必要があります。原理としては、アルカリ性のコンクリートで覆われている鉄筋は、酸化作用による腐食から保護される、ということが言えます。
鉄筋が腐食した場合には強度低下などを招きます。
しかし、さまざまな理由による劣化によってコンクリート表面に微小な亀裂等が生じると、大気中の二酸化炭素がコンクリート内に恒常的に入ることで、徐々にアルカリ性が失われ中性化し、鉄筋の不動態皮膜が破壊され、その結果、鉄筋の腐食が生じます。 鉄筋が腐食すると鉄筋の体積が大きくなり、鉄筋を覆っているコンクリートに亀裂等が生じ、その亀裂等から空気中の水分、雨水などが入ることで、さらに中性化が進んでしまう結果、建物の強度低下を引き起こします。よって、定期的な大規模修繕工事でメンテナンスすることが重要になります。
管理会社の大規模修繕工事への関与の現状
管理会社は、大規模修繕工事に関わる労力やリスクを踏まえ、管理会社として管理組合様の大規模修繕工事への関わりに一線を画している場合が多くなっています。
現状としては、関与することで、担当フロントの仕事量が増加し他の業務がまわらなくなり、会社としても労働環境が遵守できなくなる、そして、間違った助言を行ってしまった時の代償など、諸々のリスクを考えたところ、修繕委員会への出席は原則は行わない、或いは出席する場合は別途有償とするなどの対応がとられています。
当社における大規模修繕工事への関わり方
当社は管理会社だからこそ、管理するマンションに関して知り得ている運営情報や建物設備の状況、お客様の状況などを有効に、且つ積極的に工事に関わらせることで、管理組合様、コンサルタント会社、施工業者と共に良い循環をつくり、円滑な工事、そして良質な工事に努めます。
コンサルタント会社にはプロとして設計監理をお任せし、施工業者には高品質な工事をお任せし、管理会社には必要な管理をお任せすることで、良質な工事結果を招くと考えており、管理会社の関わり次第では、あらゆる面で良い影響・結果をもたらすことを認識しています。
指揮命令系統ではなく
心構えにおける関係図
是非、押さえておきたい重要ポイント・盲点
~設計コンサルタント方式の場合~
コンサルティング会社を選定するうえでは、多くは管理会社の提案からだと思います。当社は、“そもそも”の部分を重要視し、優良なコンサルタント会社様をご紹介し、大規模修繕工事の出発点となる“そもそも”に存在する不安を排除し、良いスタートの機会を提供します!
この“そもそも”が間違っていたり、悪質であった場合には、その後の「検討」や「掛ける労力」は報われません。
当社が描く大規模修繕工事は、より良い結果を得るために、当社の目で、管理組合様のパートナーに値する最適なコンサルタント会社を見極め、選定したうえでご紹介します。
そもそも、管理組合様が大規模修繕工事に取り組む出発点(スタート地点)に管理組合様の見方として寄り添っていただく立場としてコ、ンサルタント会社を決定することから始まります。
地域社会支援の取り組みとして、当社受託マンション以外、広く管理組合様にご紹介させていただきます。
大規模修繕工事の主な方法
主な方法として2つを取り上げます。
他にもあまり採用されていませんが、CM方式、プロポーザル方式などいくつかの方法があります。
A:設計監理方式(コンサルタント方式)
B:責任施行方式
「責任施工方式」と「設計監理方式」のメリット・デメリット
A:設計監理方式
〇メリット
・適正な施工会社を選定できる
コンサルタント会社で作成された工事仕様書をもとに施工会社を募るため、工事金額の適正性を確保しやすくなります。
応募各社から提出される工事見積書に対しては専門家であるコンサルタント会社が精査し、会社状況等を踏まえ比較検討してもらえます。
・第三者としてコンサルタント会社に依頼することで適正な工事の実現が図れる
コンサルタント会社は管理組合様の立場にたって、適正な工事仕様の作成、施工業者の選定補助、工事の監理、などを行いますので、工事の透明性と適正性を確保しつつ進めていけます。
工事期間中においても、施工業者への指導、検査等の監理により、責任施行方式に見られる施工会社の独自の判断による工事品質の低下といった心配が低減します。また、管理組合様の負担も軽減されます。
〇デメリット
・コンサルタント費用が発生する
設計監理方式では、コンサルタント費用が工事費とは別に、およそ工事費用総額の5~10%程度かかります。しかし、その費用に値するだけの利点を備えた業務であることを忘れてはいけません。
・不具合等の責任の所在が明確にならない場合がある
工事後に、不具合、瑕疵が発見された際には、その責任の所在が、設計にあるのか施工にあるのか判断できない場合が想定されます。管理組合様としては、責任の追及が困難な状況になってしまうリスクもあります。
B:責任施工方式
〇メリット
・一貫性が確保される
一つの会社に設計と施工を発注することで、設計から施工までの計画立案、そして工事期間中においては、外部の検査、確認が入らないため施工会社の見解見識の下でのみ進めることができるため、工事において問題が浮上しにくくなるため結果的に、作業の中断がなく工期短縮が図れるとも言われています。
反面で、施工業者のなかには複数現場を掛け持ちしており、逆に工事スケジュール計画の変更等の構築が自社判断で許されたしまうことを考えれば、コンサルタント会社に工期、工事進捗などのスケジュール管理もお願いできることのメリットも考えられます。
・一般的に費用を抑えられる
責任施工方式は一括発注のため、コンサルタント費用が発生する設計監理方式に比べて一般的にコンサルタント費用の分だけ単純に費用が抑えられると言われています。
しかし、現状はというと、工事金額の決定は、施工会社の考え方次第といったところでは一定の不安が生じます。
昨今の工事費高騰により各社の裁量により工事費用の値上げが行われていることや、他の施工会社と争わずにすむため、競争原理が生じずに工事費用が割高になってしまうとの見方もあります。このような観点からは、コンサルタント方式においてはコンサルタント会社により適正金額の見極めが図れることも踏まえたいところです。
・責任の所在が明らかになりやすい
竣工後に行われた工事における不具合、及び瑕疵が見つかった時には、責任を問うべき相手先が明確となります。そのため管理組合様の立場から、不具合・瑕疵を発見した際には、迷いが生じずに補修等をお願いできます。
コンサルタント方式では、何らかの瑕疵が発見された際には、設計の瑕疵なのか、工事の瑕疵なのかで言い合いになったり、双方で瑕疵の所在を認めたがらないといった状況が生じる可能性も踏まえておきたいところです。
その瑕疵を管理組合様が立証しなければならないなどといったことになった場合には負担が強いられます。
〇デメリット
・マンションの大規模修繕工事に慣れた、信頼できる施工会社の見極めが困難
工事設計や、工事監理など、第三者の目が入らないため、すべて施工会社の判断に委ねられることとなります。
よって、手抜き工事が心配されます。信頼関係の下でお任せするといったイメージになります。また、マンションといった特異性を踏まえマンションの大規模修繕工事に慣れ、実績を考慮し決定しなければ、工事品質の低下につながり、工事中において管理組合から不安が生じてきます。
・管理組合、管理会社の業務が増える
コンサルタント方式では、施工会社公募から選定の補助、工事中の監理など多くの業務をコンサルタント会社で行っています。
責任施行方式の場合には、これら業務を管理組合で行うことになるるため業務が増えます。
また、専門的分野であることから、実施する業務の内容、結果に信頼性、及び精度が確保できない可能性があります。
設計監理方式における大規模修繕工事の流れ
検討体制の決定
マンションの現在の状態を認識し、大規模修繕工事を実施するとなった時には、専門委員会を発足するか、外部専門家を雇うか、理事会のみで検討を進めるか、など検討。
大規模修繕工事の方法を検討
ここではコンサルタント方式といたします。
総会開催
コンサルタント会社とのコンサルタント契約締結、大規模修繕工事の実施を審議・決議。
コンサルタント会社とのコンサルタント契約締結
建物調査、診断実施
工事範囲・仕様の検討
調査診断結果を加味して、修繕工事仕様(工事箇所・範囲・数量・金額など)を議論検討。
工事仕様書を基に、施工業者を公募
施工業者の決定
総会を開催し施工業者の決定、工事内容、工事金額等を審議・決議
住民を対象とした工事説明会を開催
工事着工
中間検査、都度の定例会開催
完了検査
完了、完了建物、竣工図書等の引き渡し
最終代金の支払い
アフター点検
大規模修繕工事におけるコンサルタント業務の概要
【役割】
大規模修繕工事コンサルタントの専門家として、マンションといった特異性のある工事であるとの認識をもったうえで、管理組合様側の立場に身を置き、適正かつ良好な大規模修繕工事の達成を推進します。
1建物調査・診断業務
現状の建物の状況を全体にわたり目視、触診、専用機器などにより調査・診断を行います。お住まいへのアンケート、ヒアリング、過去の修繕履歴等と解して修繕箇所の抽出します。
2修繕設計業務
管理組合様のご意向、財政状況等を踏まえ、修繕工事の仕様を検討し、基本設計・実施設計等を行います。
3施工業者の選定補助業務
決定した修繕設計を基に、施工業者を募り、応募施工業者を比較検討し、管理組合が施工業者を決定するうえでの材料収集、助言等を行うことで最適な施工業者を決定。
4工事監理業務
大規模修繕工事期間中における施工業者による工事を指導・監督し、適正な工事を確保します。
工事期間中のお住まいの方への配慮、働きかけを行います。
5アフターサポート
大規模修繕工事の竣工後において決められた期間、問題がないか確認します。
大規模修繕工事費用の不足と資金の捻出手段
①多くの管理組合様では大規模修繕工事の工事費が不足する場合には資金融資(借り入れ)を検討します。
住宅金融支援機構のマンションリフォーム融資の場合で、融資金利を年利0.77%とした場合で、融資金額を、5,000万円、4,000万円とした場合とで、それぞれにおいて返済期間を10年、7年、6年、5年とした場合の総返済額と金利額です。(概算となります。)
参考として、住宅金融支援機構でマンションリフォーム融資を受ける際には、別途保証料を納める必要があります。また、月々の返済額が修繕積立金月額の満額に対し8割以内となる設定でなければなりません。
融資金利0.77%でも、借り入れる額が高額なだけに金利の額もお高めになります。こうなりますと、大規模修繕工事に向けて計画的に資金を貯めていくことが望まれます。
①借入額を5,000万円とする場合
毎月の返済額 | 総返済額 | うち金利 | |
10年返済 | 433,000円 | 51,960,000円 | 1,960,000円 |
7年返済 | 611,600円 | 51,374,400円 | 1,374,400円 |
6年返済 | 710,800円 | 51,177,600円 | 1,177,600円 |
5年返済 | 849,700円 | 50,982,000円 | 982,000円 |
②借入額を4,000万円とする場合
毎月の返済額 | 総返済額 | うち金利 | |
10年返済 | 346,400円 | 41,568,000円 | 1,568,000円 |
7年返済 | 489,280円 | 41,099,520円 | 1,099,520円 |
6年返済 | 568,640円 | 40,942,080円 | 942,080円 |
5年返済 | 679,760円 | 40,785,600円 | 785,600円 |
②不足額を所有者から一時金として徴収する
各戸から徴収する金額にもよりますが、物理的に支払える所有者と支払えない所有者の発生や、一時的な出費で生活資金が捻出できない所有者の発生など、あらゆる問題が想定されます。